しし座流星群観測レポート


 11月18日夜から19日未明にかけて、姫路工大天文部に混じって淡 路島まで行ってしし座流星群を観測しましたので報告します。

 結論: 25時すぎ〜28時ごろまでに計4000個以上の流れ星が現れた ことを確認しました。これまでに経験のないことで、何と 表現したらいいかわからないぐらいに興奮しました。

ここから詳細です。

 11月16日(金)、私は熊本出張中でした。出張先では毎週末に週末 当番と称して土曜日に出勤し日曜は熊本に滞在して月曜日また熊本 という出勤態勢を交代でとっていて、その週の週末ちょうどそれに 当たっていました。しし群の観望は熊本でどこか手配するしかない かな、足はないしどないしょうかなと思っていましたが、突如とし て「今週は土曜日まで出て、日曜日に帰ってよろしい。月曜日は休 みにしなさい」と言われてしまいました。  うれしいけど、ぜんぜん準備してません。まず、「どこで」「誰 と」見るかを決めないと、と思いました。思いついたのが「とにか く姫路工大の天文部に混じって、あとは彼らと考えよう」というこ とでした。相談したらあっさりOK。これで「見る」準備は終わりま した。
 18日当日の朝は9時20分熊本空港発の伊丹行きに乗り、夕方に一 旦、車をとりに実家に帰りました。帰ったら実家は時雨れていまし た。「こら、やっぱりここにおったらあかん、とっとと出かけな」 と決意を新たにして、18時に実家を出、20時半ごろ姫路工大に到着。  着いたら、「まだどこで見るか決めてない」とのこと。とにかく 姫路みたいに明かりが邪魔するような場所からは移動しないといけ ません。既に他大学の天文部は観測に入っていたり、移動中だった りしています。とにかくそういうところへ電話をかけまくって、各 地の天気情報を入手します。すると兵庫県の北のほうはアウト。徳 島も曇り。どうやら紀伊半島ぐらいが晴れている、ということにな りました。天気予報を考えると、北の方に晴れ間を望むのは無理そ うです。できるだけ南へ移動したいのですが、Asher氏の言う極大 が朝の26時すぎであること、それから翌日朝の交通渋滞のことを考 えると、いくら天気がよいといっても紀伊半島へは時間がかかりす ぎます。結局、淡路島へ渡ることにしました。

 とにかく車を走らせてフェリーに乗り、淡路島へ。フェリーから 外を眺めていると、火球とよばれるような明るい流れ星を2つも見 ることができました。また、途中他大学と連絡をとりあったところ Asher氏の予報どおりアメリカで第1波の極大が観測されたとの情 報を入手できました。また観測中の大学から、流れ星は1時間に 100個程度見えているとの報告もありました。普段の流星群を見て いるときでも「多い」と言っていい数です。全員の気合いがかわっ てきました。
 いよいよ観測場所に到着。目がなれると、既にもう流れ星がいく つか見え始めています。幸い、私たちのほかに車の出入りはほとん どありません。明かりに邪魔されずに観測ができそうです。全員が 手配りし、計数班と写真班とにわかれて、観測スタート。私は計数 班(要するに流れ星の数を数える仕事)に回りました。  流れ星の数を数えるときには普通明るさや色、方向、流星群かそ うでないかなど記録をとることになっています。ただ天文部として レベルがもう一つだったことと準備不足との両方で誰もそんな用意 をしていません。仕方がないので、流れ星が見えるたびに「いち」 「に」「さん」などと数を数えるだけにとどめました。これがあと になって幸いしました(流れ星がとにかく多くて、記録つけてる暇 がまるでなくなったのです)が、このとき誰がそんなことに気づい たでしょうか。

 観測をはじめたのが25時15分。はじめの45分間に420個を数えま した。もう既にこれまでに経験したことのない数字です。「Asher は偉い」「こんなんはじめてや」などと言い合いながら、いよいよ Asher氏の言うピークの時間帯が近づいてきました。
 26時。私の分担は北の空で、はじめの5分間ほどは数個レベル、 南のほうはすでに数十個を数えています。ときどき空が明るくなる ようにみえるのは、決して雷などではなく、流れ星がその最後のほ うに爆発的に明るくなるからです。まだ北の空はヒマなほう。南と 東の空には忙しく流れ星が流れ始めています。「北はヒマやぞー」 「ヒマやぞー」と言いながら、それでも数は増えていきます。はじ めの30分で600個以上を数え、「こら1,500は行くで」と言ってしま いました。このときは「ちょっと言い過ぎ」と言われましたが、実 態は、そう言っている間にも流れ星がしきりに現れるようになって きました。一度に数個がばらばらっ、と現れる、いかにも流星群ら しい見え方になってきました。このころになると、もうみんな、数 を数えるだけで必死です。ときどき「今830個か〜」「今どれぐら いや〜」と数の確認をしないと、カウントすっとばしそうな状態で した。しかし確認しているうちにもカウントが増えていきます。数 の大きさはもう例えようもなく、「今建武の新政」「鎌倉幕府開闢」 「金閣寺建った」という声が上がっていきます。「めざせ関ヶ原」 などと言っていましたが関ヶ原もクリア、江戸幕府もめでたく開か れ、26時から27時までの1時間に1,600台後半と、恐ろしい数字が 積み上がってしまいました。1分に26個以上、どこかに視線を向け て1分も見てれば流れ星がいくつも見られる、という、これまでに プラネタリウムぐらいでしか経験のない状態です。ここへ来るまで まったく想像もしていない事態でした。
 普段ならここで10分ほど休んで観測再開となるのですが、「こん なんで休めるか」の一言で観測を続行。もうみんな、テンションが 異常です。流れ星の数を数えるというよりは、みんなで悲鳴をあげ ている感じ。1秒の途切れもなく、しかも7〜8人がみているうち 2方向以上でいちどに数個の流れ星が現れます。本当に「容赦なく」 流れ星が降り注いでくるようでさえあります。とうとう、「今何個 や?」と聞くヒマさえなくなってしまいました。こんなの、星が好 きになって空を眺めるようになってから初めてのことです。みんな の声が嗄れていきます。他大学への報告、他大学からの報告で携帯 電話は鳴りっぱなし。電話の向こうからも、歓声とも悲鳴ともつか ない声が聞こえてきます。
 そうこうしているうちにも、流れ星は次々に降ってきます。関ヶ 原は簡単にクリア。江戸幕府の三大改革もあっさり通り過ぎました。 戊辰戦争、日清・日露戦争もなんのその、太平洋戦争もあっさり片 がつき、東京五輪も終わり、万博、'85年の阪神の優勝、忌まわし い震災も行ってしまいました。いよいよカウント2000, 2001, そし てここからは未来です。ドラえもんの生産された22世紀もあっさり と過ぎてしまいました。

 もうみんな1時間前のテンションはどこかへ行ってしまいました。 疲れがありありです。時計を確かめる余裕もなく、気がつけば27時 50分を過ぎています。それでも一生懸命、数を積み上げていきます。 とうとう28時がきました。その数なんと2500以上。10秒で7つほど の流れ星が見えた計算になります。「プラネタリウムの流れ星の見 せ方って、嘘ばっかしやと思うとったけど、やっぱり嘘やなかったん や。信じられん...」というのが、数え終わったときの心境でした。
 あとは自由観望。「渋滞に巻き込まれるので撤収します」との声 に、ぞろぞろと機材を片づけて終わったのが28時50分でした。まだ 空には流れ星がばらばらっと散っています。岩屋までの車中、それ も空が明るくなりはじめてからでも、前方に流れ星を見ることがで きました。車の中から流れ星を見るのも、はじめてのことです。
 日が昇るのをフェリーから眺め、明石に渡って解散。解散後は国 道175号を延々北上して実家へ帰りました。途中疲れて三木・社・ 西脇あたりでしばらく休んだりしたので、帰りが14時を回ってしま いました。

 流れ星を数えるだけで疲れ、声が嗄れるなんてはじめてのことで す。しかしそれより何より、1時間で2,500個もの流れ星の出現に 立ち会えることができたなんて!!
 思い出すだけで興奮が蘇ってきます。もう「1時間に100個の出 現が期待できます」と言われても驚きません。一生ぶん見た、とい う感じ。考えるだけで、呆然としてしまいます。

 これだけの数の流れ星を見せてくれた、偉大な自然に感謝しつつ この稿を閉じます。拙文長文におつきあいいただき、ありがとうご ざいました。


天文関係のページへ
tmad@1974.gr.jp